【福岡アジア文化賞 メールマガジン】 (Vol.2)                     2007/03/16


                        〜 アジアの風だより 〜

 今年は記録的な暖冬のせいで、本格的な寒さも殆どないまま、春を迎えようとしていま
す。皆様、いかがお過ごしでしょうか。
 さて、1月に「福岡アジア文化賞」のメールマガジン 〜アジアの風だより〜 を創刊
し、昨年の大賞受賞者である莫言氏(中国/文学)と学術研究賞受賞のシャグダリン・ビ
ラ氏(モンゴル国/歴史学)をご紹介しましたが、今回は、学術研究賞受賞の濱下武志
(はました たけし)氏(日本/東アジア近代史)と芸術・文化賞受賞のアクシ・ムフティ
氏(パキスタン/民俗文化保存)のお人柄やエピソードなどをご紹介します。

    ※ 賞の概要や各受賞者の贈賞理由、経歴等は本賞ホームページをご覧ください。
                          http://www.city.fukuoka.jp/asiaprize/
                                        
                                        
                                        
                            『濱下武志氏の横顔』
                                       
 濱下武志さんは、東アジアの近代経済史が専門ですが、国と国ではなく、交易、移民、
華僑・華人の送金など、地域間のネットワークを主に研究し、国家を中心としたアジアの
歴史観を大きく塗り替えました。また、これまで30年にわたり、足繁く各地を訪問し、
資料収集、史跡の調査、現地の人々との語らいに努力するとともに、各地の若手研究者の
指導や育成にも情熱を注いできました。

◆話がそのまま原稿に◆
 濱下さんの市民フォーラムや学校訪問での講演は、大変分かり易く、興味をそそられる
ものでした。後日、録音テープを聴いて講演録を作っていましたが、話した言葉が殆ど完
璧な文章になっているのに気がついてびっくりしました。原稿を読んでいたわけでもない
のに、学術的なレベルの高い話が整然とまとまっているのです。話し言葉は、普通、なか
なかこうはいかないのですが…。先生のとびきり優れた学識と、几帳面なお人柄によるも
のでしょうが、その素晴らしさに改めて感銘を受けました。

◆穏やかで気さくな先生◆
 偉い先生というのは、厳しく怖そうなイメージがありますが、龍谷大学の研究室に初め
て濱下さんを訪ねた時も、やや緊張してお戻りを待っていました。
 間もなくして、先生が現れ、「いやぁ、お待たせしてすみません」と穏やかな声を聞く
と、ホッと緊張がほどけました。研究室は京都大学からの引っ越し直後で、まだ片づいて
いない荷物や本が山積みの状態でしたが、丁寧に応対して下さり、打ち合わせの途中、3
階の研究室から1階の自動販売機まで一緒に飲み物を買いに行っていただくなど、とても
気さくな方でした。

《主な著作》  
『近代中国の国際的契機』(東京大学出版会)、『香港−アジアのネットワーク』(ちくま新書)
                                        
                                        
                                        
                        『アクシ・ムフティ氏の横顔』
                                        
 アクシ・ムフティさんは、パキスタンを代表する民俗文化保存の専門家で、『ローク・
ヴィルサ』という国立民俗伝統遺産研究所を1974年に創設し、所長を務めるなど、その発
展に主導的な役割を担ってきました。パキスタンはインダス文明発祥の地であり、モヘン
ジョダロやハラッパーなどの古代都市が栄えました。また、ガンダーラ美術や僧侶の学校
など仏教文化も花開きましたが、『ローク・ヴィルサ』は2004年に博物館を立ち上げて、
古代から続くパキスタンの豊かな歴史や文化を、膨大な収集品やジオラマなどで興味深く
紹介しています。


◆大胆不敵なドライバー◆
 昨年の3月に、アクシ・ムフティさんに受賞内定を伝えるため、パキスタンに行った時
のことです。
 初めてお会いするというので、いそいそと準備をしていると、ホテルの部屋に電話がか
かってきました。受話器から聞こえるのは、「今から車で迎えに行きます」という優しそ
うな声。ムフティさんご自身が迎えに来てくれるなんて、親切な人だなと感動する一方で
、受賞するような偉い人は、どんな高級車に乗ってくるのかと興味津々でした。
 ところが、現れたのは、泥まみれのジープのような4WD。パキスタン全土はもとより
、はるばるシルクロードを通って中国までもフィールドワークに行くムフティさんにとっ
て、車は「ステータス」ではなく、「実用性」と「耐久性」なのです。「やっぱりこの車
じゃないとダメだね」と、にこやかにハンドルを握るムフティさんですが、その大胆不敵
な運転ぶりには冷や汗が出ました。乗り込むと同時に、波打つ砂漠の真ん中を走るように
、大きく揺れながら疾走したのです。ちなみに、ムフティさんは65歳です。(昨年 9月)

◆口承伝統を受け継いで◆
 パキスタンは、口承の伝統がある国。この国では、音楽、工芸、技術など、多くのもの
が文字ではなく、口伝えで継承されてきました。それにより、師から弟子へ、親から子へ
、世代から世代へと文化が脈々と受け継がれてきたのです。語り部の国でもあり、重要な
物語の多くは、歌によって語られます。代々のマハーラージャー(藩主)は、歴史上の出
来事を音楽に合わせて歌うミーラーシーと呼ばれる歌手を抱えていました。
 そのせいか、文化の伝承を担うムフティさんも話すことが大好きです。話題も豊富で、
いったん話し始めるとなかなか止まりません。でもムフティさん、話しすぎて喉を痛めて
しまい、医者から、あまり話しすぎないようにと注意されているようです。それでも、本
人はまったく気にしていない様子。パキスタンでも福岡でもずっと話し続けて、皆を楽し
ませてくれました。


※このメールマガジンは、本賞授賞式の参加者の方々などにお送りしています。
 ご意見・お問合せやメールマガジンの停止は、http://www.city.fukuoka.jp/asiaprize/へ。