【福岡アジア文化賞 メールマガジン】〜アジアの風だより〜 Vol.1(2007.1.16)
                            
 皆様、明るく希望に満ちた新年をお迎えのことと思います。
 私たちが暮らすアジアは、長い歴史と広大な自然の中で、多様で、豊かな文化を育んで来ましたが、「福岡アジア文化賞」は、その貴重な財産の保存や創造に貢献し、未来に引継いでいくために、1990年に創設されました。
 皆様に、多様なアジアの文化や「福岡アジア文化賞」に、より一層、親しんでいただくため、今年から〜アジアの風だより〜と題して、メールマガジンをお届けすることにしました。
 受賞者の素顔や本賞の行事案内に加えて、各地の文化情報などを、アジアから吹いてくる風のように、やさしく、軽やかにお伝えしていきたいと思います。

 創刊号となる今回は、昨年、大賞を受賞した莫言氏(モオ・イエン 中国/文学)と、学術研究賞を受賞したシャグダリン・ビラ氏(モンゴル/歴史学)に、直接お会いして分かった、そのお人柄やエピソードなどをご紹介します。

 ※賞の概要や各受賞者の贈賞理由、経歴等は本賞ホームページをご覧ください。
    http://www.city.fukuoka.jp/asiaprize/
                                        
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『莫言氏の横顔』

 莫言さんは、現代中国文学を代表する作家。ベルリン国際映画祭で「金熊賞」を受賞した『紅いコーリャン』(張芸謀監督)の原作者でもあります。   
 ※張芸謀(チャン・イーモウ)監督も福岡アジア文化賞の大賞受賞者(2002年)

◆言うなかれ◆
  莫言さんと初めてお会いした時、とても穏やかで優しい人だと思いました。こちらの話にも熱心に耳を傾け、全部聞き終わって丁寧に答えてくれます。まるで、おおらかな大地のような印象でした。しかし、その名前から、寡黙な人かなと思っていたら大間違い。話し出したら、言葉がとめどなく溢れてくるのです。市民フォーラムで、ご自身が語ったことによると、文化大革命の時期に言ってはいけないことを喋り、小学校を退学になるなど、お母さんがおしゃべりを心配して、いつも莫言(言うなかれ)と叱られていたそうです。

◆想像力にびっくり◆
 飯倉中央小学校を訪問した時のこと。莫言さんが子ども達との話を終え、校長室に戻ってくると、「生徒さんとの会話だけで数百ページの物語が書けます。子ども達の言葉には奥深さがあり、ストーリーを感じます。」と言ったのです。周りにいた人達は、皆びっくり。莫言さんの頭の中は無数の言葉で溢れていて、瞬時に豊かな表現へと転換できるのでしょうか。想像力や表現力を培ったのは、小学校を追われ、牛飼いになってから。牛に話しかけ、草に寝ころび空を見上げ、空想の世界に浸っていたからだそうです。

◆ユーモアも天才的◆
  授賞式や市民フォーラムなど忙しい行事の間に、莫言さんを放生会に案内しました。筥崎宮の方から、太鼓の音が聞こえてくると、突然、ゆっくりと踊りだしたのです。『紅いコーリャン』の冒頭のシーンで、御輿を担いだ男たちが、手や足を交互に上げ、体を左右斜めに揺らしたように。莫言さんは、体をくねらせて踊りながら、「体を動かせば頭も働く」と言いました。
 市民フォーラムの当日は、台風が急に方向を変えて、福岡に向かって来たので、事務局は、対応に大わらわでした。しかし、莫言さんが「台風は私が連れてきたので一緒に連れて帰ります。」と言うと、皆、大爆笑。外は暴風雨のまっただ中でしたが、翌日は、その言葉のとおり、見事な快晴になりました。そして、莫言さんは、大地のように穏やかな笑顔を残して、福岡空港から北京へ飛び立って行きました。

≪ミニ情報≫
 本  … 『赤い高粱一族』『酒国』『豊乳肥臀』『四十一炮』など〈邦訳〉
 雑誌 … 「群像」2006年8月号、「すばる」2006年12月号など
  新聞 … 産経(2006.9.25〜30朝刊)、中日(同.10.2夕刊)、日経(同.10.14朝刊)、
       西日本(同.9.14,15朝刊)、毎日(同.9.26朝刊、同.10.10夕刊)、
       読売(同.9.19朝刊)など

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『シャグダリン・ビラ氏の横顔』

 シャグダリン・ビラさんは、国際モンゴル学会の事務局長を務める歴史学者。インド・チベットをも含めた幅広い見地からのモンゴル研究で国際的評価を得ています。

◆とってもエライ人◆
 ビラさんのすごさを物語るエピソードをご紹介します。
 昨年3月に受賞が内定し、モンゴルのウランバートルを訪問した時のこと。
 ビラさんに、「今から大統領に会いに行く」と言われ、「大統領ってそんなに簡単に会えるの?」と半信半疑のまま、官邸入口でチェックを受け、謁見の間へ。そこには、写真で見た印象よりもずっと大柄なN.エンフバヤル大統領がにこやかに待ち受けておられました。緊張のあまり、握手をした時に「まあ、大きい手だわ」と思ったことぐらいしか覚えていないのが残念です。
 普通なら、市役所の担当者が大統領に面会するなど考えられないのですが、大統領がビラさんを師と仰いでおられたため、福岡アジア文化賞を代表して、謁見が実現することになったのです。モンゴルの教育・文化・科学大臣はじめ、政府や学術・文化界の要人にも、何人もの教え子がいて、皆さん、口々に「ビラ先生を尊敬しています」とおっしゃっていました。
 ビラさんは、業績も人柄も素晴らしい方ですが、モンゴル国民に尊敬されているとても偉い人だったのです。

◆緊急家族会議◆
 こんなに偉いビラさんですが、ご家族、特にお孫さんには弱いようです。
 7月に、受賞の記者会見のため、再びモンゴルを訪れた時、ビラさんご夫妻、ご家族20人ほどのお祝いの会に招いていただきました。
 食事が始まりしばらくすると、お嬢さん、お孫さんが9月の授賞式に「私も行きたい」といいはじめ、緊急家族会議に突入。「福岡に行きたい人」、「は〜い」という具合に決まりました。さすがのビラさんも、かわいい子供や孫には、たじたじといった様子。チャーミングな一面も見ることができました。

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 次回は、学術研究賞受賞の濱下武志氏と、芸術・文化賞受賞のアクシ・ムフティ氏の横顔を紹介します。

 ※このメールマガジンは、本賞授賞式の参加者の方々などにお送りしています。
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